高松高等裁判所 昭和32年(う)479号 判決 1958年8月18日
控訴人 被告人 大竹渉
検察官 南館陸奥夫
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中五十日を原判決の詐欺の罪の本刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、記録に編綴してある被告人及び弁護人中村一作の各控訴趣意書に記載のとおりであるからここにこれらを引用する。
被告人の控訴の趣意について。
被告人の控訴の趣意は、原判決には事実の誤認がある、というものの如くであるが、原判決挙示の証拠を綜合すれば原判示事実は、これを肯認することができ記録を精査し、当審における事実の取調の結果に徴するも、原判決には所論の事実の誤認はないから、論旨は理由がない。
弁護人の控訴の趣意について。
一、訴訟手続上の違法があるとの点について。
本件被告事件の内、恐喝未遂被告事件について、所論の合議体で審理及び裁判をする旨の決定のなされたことは、記録上明らかであり、右決定は裁判所法第二六条第二項第一号の規定に基くものであることも明らかである。ところで、右規定に基く決定を取り消すことができるかどうかについて考えるに、この点について何等の規定がないけれども、右規定に基く決定をするかどうかは、当該裁判所の自由裁量に任せられたものであることは、右第二六条の規定全体の趣旨から明らかであり、従つて右決定を取り消すことも亦当該裁判所の自由裁量事項に属するというべきである。凡そ、一人の裁判官で事件を取り扱うよりも、裁判官の合議体でこれを取り扱うのが、被告人にとつて原則として利益であるというべく、従つて前記の第二六条第二項第一号の規定に基く決定を取り消すことは、右利益を奪う結果となることは、なるほど所論のとおりである。然し右利益は被告人に対し、もともと与えられたものではないことは前段説示するところによつて明らかであるから、右論旨は前段に述べた結論に何等消長を来たすべきものではない。
徳島地方裁判所が、右恐喝未遂被告事件について、これを本件詐欺被告事件が係属していた松山地方裁判所八幡浜支部に併合する旨の決定をしたことは、記録上明らかである。ところで、右支部は、前記の第二六条の規定により合議体で取り扱うべき事務を取り扱う権限のないことは、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則第一条の規定の定めるところであるから、徳島地方裁判所がかかる支部に併合決定をした以上該決定中には当然に、さきになした合議決定を取り消し、一人の裁判官をして事件の取扱をなさしめる旨の決定をも包含するものと解するを相当とする。
それで論旨は理由がない。
一、量刑が不当であるとの点について。
本件各犯行の動機、態様、罪質、被告人の前科及び経歴等記録に現われた一切の情状に徴するときは、原審の量刑は相当である。所論の事情は、これを認めるべき資料がないのみならず、仮に、右事情をも考慮しても、原審の量刑を過重であるということはできない。
それで論旨は理由がない。
よつて、本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条、刑法第二一条、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により主文のとおり判決する。
(裁判長判事 玉置寛太夫 判事 渡辺進 判事 安芸修)
弁護人中村一作の控訴趣意
一、被告人に対する詐欺罪につき、恐喝未遂罪が後段の併合罪となること、及び執行猶予取消等の事情を考慮すれば余り苛酷に失すると思料しますので、以下の事実御勘案の上御寛大な裁判を求めます。
1、本件の被害者松末覚は従前より詐欺賭博の経験者であり、彼自身が詐術を用いて山林を入手しようとしていたこと、
2、而も右松末が多少の注意を払えば、本件被害を避けられたにも拘らず三回も続行しむしろ同人の方が積極的ですらあつたこと
二、尚本件恐喝未遂事件について、併合前合議決定がなされていたにも拘らず単独裁判官により審理された手続上の違法があります。右の点については原判決末尾に註釈がありますが次の点からその解釈に疑問があります。
1、単独制の裁判所へなした移送決定の中に合議決定の取消を含むと解することの可否
2、仮に右を積極に解するとしても合議決定が取消得るか否か
もつともこの点について原審弁護人被告人とも異議をのべず、犯罪事実については被告人の自白するところで、格別判決に対する影響は考えられず、手続違背も当然治癒されたかの如くでありますが、単独制より合議制の裁判をうくるのが少くとも被告人にとつては形式上利益であると思われるので一応控訴の理由とした次第であります。
被告人大竹渉の控訴趣意
今般詐欺恐喝未遂罪により昭和三十二年十一月二十一日松山地方裁判所八幡浜支部に於て懲役一刑詐欺一年二ケ月、二刑恐喝未遂四ケ月を言い渡されましたが此れに対して不服でありますから控訴致しました其の理由は左の通りであります詐欺事件に付きましては被害者松末さんが負けた金額と私達が取つた金額が違つて居りますのと賭博に依る方法ですがインチキは被害者松末さんの方が余計致しました私は只賭博にて勝負の出来る様に人員を集めましたけれ共一回も勝負はして居りませんインチキは被害者松末さんの方が余計しましたが結果勝負に負けましたが此れは勝負上の技術の相違と思います余り松末さんが負けるので気の毒に思い勝負を止めさせて私は家に帰つて居つたのを谷本を通じて呼びに来た時でも私は松末さんに止める様に言つたのにも拘らず止めずして負けました此の詐欺事件の内容は供述調書に申し述べて居ります通りです。被害弁償は壱万五千円也返して居ります。次に恐喝未遂の事件ですが私の共犯栗若が被害者阿部君達と徳島市栄町入口で口論して居りました所へ私が通りかかり私の友達栗若が阿部君外二名と口論して居りましたので私は喧嘩に成つたら悪いと思い仲裁に入り其の場を鎮め其の翌日阿部君達と栗若が円満になる事を望んで話し合いした心算です其の時私から悪い言葉が出て居りますが此れは成り行き上悪い言葉が出たのでありまして其の証拠に阿部君が千円か弐千円位なら出来ると言いましたけれど私は毛頭阿部君から金など巻き上げる気持はなかつたので決して被害者阿部君達から金等を喝取する意志等ありませんでした私の事件詐欺、恐喝未遂に付きましては供述調書をお調べの上寛大に願います。